署名・押印の意味について説明する前に

借用書などにする署名や押印にはどんな意味があるのか

友人に「50万円を惜してほしい」といったところ、「貸してもいいけど、借用書をつくって署名・押印
してくれ」といわれた。署名・押印なんてしなくても貸し借りした内容はわかるのに、なぜしなけれ
ばいけないんだろう?

 

●文書をつくるのはなぜか
署名・押印の意味について説明する前に、そもそもなぜ文書をつくるのかをおさらいしておきま
しょう。お金の貸し借りは、借用証書などの契約書をつくらなくても有効です。借用証書などの
契約書には、契約の内容をはっきりさせておく作用があるだけで、「それがないとダメ」というもの
では決してありません。実際、親族や友人のあいだでお金の貸し借りをするケースでは、借用
証書などをつくらないことが少なくありません。しかし、そのような間柄であっても、事業資金や
住宅資金としてお金の貸し借りをするケースでは、お金の流れがわかるように、借用証書など
をつくったり、通帳に記載されるようにしておくほうがベターなのです。一方、金融機関からお金
を借りたり、保証人になったりするケースでは、必ず契約書がつくられ、貸主や借主が署名・押印
をするのが当たり前のようになっています。このようなケースでつくられる契約書は、長かったり、
難しかったり、担当者の説明を問いてもよくわからないことも少なくありませんが、求められるまま
に署名・押印していることが多いでしょう。では、署名や押印には、いったいどんな意味がある
のでしょうか。

 

●署名の意味とはなにか
署名とは、「善かれていることに賛成である、あるいは認めた」という証しに、自分の姓名を自分自身
で手書きすることです。署名することによって、裁判の場では、その文書自体の信憑性が高くなり
(偽造ではないことが推定される)、かつ、善かれている内容についても「私が承諾した」ことが推認
されます。また、裁判の場でそのような取扱いがされますから、実社会においても同様の効果がある
といえます。ですから、善かれている内容がわからない、あるいは、書かれるべき内容のすべてが善か
れていない契約書に署名をすることは、できるだけ避けるべきです。さらに、署名には、署名した者が
問違いなく本人かどうかを確かめるという作用もあります。よく筆跡鑑定と呼ばれますが、「この署名
が、本当に本人が書いたものなのかどうか」を、署名の筆跡によって確認することができるのです。
しかし、日本では署名の筆跡を鑑定する技術が一般化してはいません。本人かどうかを確認する
手段としては、印鑑よりも署名のほうが優れているのですが、印鑑の文化が発達している日本や
中国、台湾、韓国などでは、より簡便な印鑑による本人確認が発達しています。

 

●押印(=捺印)の意味とはなにか
署名と同じように、印鑑を押すことにも、書かれていることを認めた証しという意味と、間違いなく本人
であることを確認する作用があります。ところで、印鑑には「実印」とか「三文判」とか呼ばれるものが
ありますが、どんな違いがあると思いますか。

 

●身に覚えのない署名や押印の効力
「他人が勝手に自分の名前を契約書に署名してしまったために、突然、覚えのない請求を受けた」、
こんなケースがしばしば起こります。そのようなニセの署名・押印にも「書かれている内容を認めた」と
いう効力があるのでしょうか。もちろんこセの署名・押印には、そのような「認めた」という効力はありま
せん。ですから、契約をした覚えがなければ請求に応じるべきではありません。しかし、万一裁判に
なったときには、自分が契約したのではないことをはっきりと裁判官に伝え、あわせて契約書にある
署名・押印がニセ物であることを証明しなければいけません。筆跡や印鑑がまったく違えばニセ物
であることはすぐにわかりますが、本物とそっくりであったり、あるいは白紙委任状(内容がまったく善か
れていない白紙に署名、実印を押印しただけのもの)のように署名・押印それ自体は本物であると
いったケースでは、「書かれている内容を認めていない」ことを証明するのはやさしくありません。実際、
自分の知らないうちに白紙委任状によって公正証書がつくられ、予期しない給料の差押えなどの
被害にあうケースは少なくありません。ですから、@相手が信用できるときしか署名・押印しない、
A契約書などの内容でおかしいと思うところ、わからないところがあるときは、納得するまで署名・押印
しない、B内容が書かれていない紙に署名・押印しない、C実印をしっかり管理するなど、これらの
ことに十分気を配って被害にあわないように予防しましょう。